物語

リンゴ売りの少年

                                                                                   2008年頃製作

 

『リンゴ売りの少年』
 
ある晴れた天気のいい日の午後のとある村
 
太陽はご機嫌で少年に
この暑い中 リンゴを採りにいくようにと命じました
 
少年はおじいさんとふたりで小さな小屋に住んでいます
おじいさんはもうあまり体が動かないので
少年がリンゴを売って暮らしているのでした
 
おじいさんは少年のために
シチューを作ったりセーターを縫ったりしながら
少年の帰りを待つ日々を送っていました
 
しかし少年はうんざりしていました
他の友達には両親も立派な赤い屋根つきの家もあって
新しい上等な洋服を着て遊んでいるのです
 
だから少年はリンゴを採って売るのをのを辞めてしまいました
小屋にあるリンゴは腐り
仕方なくおじいさんは一日ほんの少しだけリンゴを森に採りに行き
2つや3つ リンゴを売り ほんの少しの小麦で
小さいパンと大きいパンとを作り
大きいほうを少年へ 小さいパンを自分で食べて暮らしていました
 
太陽が少年に森へリンゴを採りに行くよう命じたのは
そんな生活が数週間過ぎた矢先のことでした。
 
 
ですから
リンゴ売りの少年は ぶつぶつ云いながらも
太陽に言われたとおりに
リンゴを取るために汗を噴かせながら 
果ての見えない
緑でおおわれた森の中に入っていきました
 
少年が
ざわざわとたくさんの緑が生い茂った大きいリンゴの木の前に
たどりついたとき、どこからともなく
穏やかな風が大きな円を描きながらビュワっと
通りすぎました
 
風に揺られた緑の葉たちはわいわい言いながら
下に降りてゆきました
 
ふかふかとした土の地面とつやつやとした葉っぱがざわざわ云っている中に ふと
少年の目にキラキラと映るものがありました。
 
少年がそれを拾い上げると
それは静かにしていた
葉っぱです。
 
その静かにしていた葉っぱは
オーロラ色にキラキラと輝いていました。
そして少年にこう言いました。
 
「君は誰かを愛したことがあるかい?」
 
少年は栗色毛でおおわれたの頭をぐるぐる回しながら考えました
 
「おじいさんに愛されたことならあるよ。」少年はそう言いました。
 
「そうかい。それなら今度は君がおじいさんを愛してごらん。君にならできるよ。だって君は愛されてるのだもの。」
 
そう 葉っぱは言った後 しゅるん 少年の手のひらから
消えてしまいました。
 
次に木の太い幹がさっきまでは 何もなく
おとなしくしていたのに キラキラとルビィ色に熱をおびていました
 
少年が近づいて
手を触れると とても温かく心地よいピンク色のものが少年の全身をを駆け巡り
少年はピンク色に染まりました
とても心地よく
だんだん
ぼぅっとしていきました
 
“これが心だよ 感じるというのが 感じている主体が心だよ 君のこころを感じれたろう”
 
木の幹は何も言っていないのに
 
そう云っているのを少年は感じていました。
 
少年はこころの存在を生まれてから一番 はっきりと感じることが出来ました。
 
すると 少年の体は 木の中に ゆっくり 入っていきました
 
木の中にはまた別の世界が広がっていて 優しい青色に帯びながらも 全てがキラキラと オーロラ色に輝いていました。
 
そこは真実の世界なのだと
 
少年はわかりました
 
もう 少年にはそこでは言葉も必要がないということ
 
全てが真実で嘘が いっさいない 本当の世界なのだと
 
誰にも教えられずに なぜだか わかりました
 
わかりました
 
いったい どれだけの時間を 少年はその世界で過ごしたのでしょう
 
少年は ただ ただ しあわせでした
 
体じゅうが きらきらとオーロラ色に輝き 少年の
 
ハートはダイヤモンドより眩しく光っていました
 
体は空気よりかるく いきたい場所へ どこへでも 一瞬で
 
いきたいと思った瞬間に もうその場所にいました*
 
 
どのくらいの時間が経ったでしょう
 
彼は森の中の大きなリンゴの木の前で倒れていました。
 
日はもう とうに暮れ 森の中は真っ暗です
 
少年は身体を起こしましたが 服は土で茶色に染まり 髪には緑の葉っぱが絡み付いていました
 
どうやって帰ればいいのだろう と少年が考えていたとき 向こう側から
 
小さい光が見えました
 
光はだんだん近づいてきて
 
影が見えてきました
 
それは燈篭をもったおじいさんでした
 
少年にはその燈篭の光が今までで一番温かい光に感じました
 
その燈篭に照らされたほつれた泥でいっぱいの服が 今まで見てきたどの服より 上等で大切に思えました
 
少年がぼおっと そんなことをかんがえていると
 
「こんなに一生懸命リンゴを採っていたんだね。ありがとう。」そう、おじいさんが言いました。
 
はっとして 横を見ると これでもかというぐらいに 少年が持ってきた籠の中に リンゴがたくさんてんこ盛りに 積んでありました
 
「さてさて。帰って 一緒にパンを食べよう。大変だったじゃろうに。」
そう言って先に帰路に向かって ゆっくり 歩き出す おじいさんの背中が
少年には 世界中の誰よりも 愛おしく 見えました。
 
少年もあとを 追って歩き出します。
 
誰かによってたくさん積まれた赤いリンゴは 少年の涙によって つやつやと 世界中のどのリンゴよりも 眩しく輝いているのでした。
 
       おしまい